残心|詳説
「残心」とは、簡単にいえば、技を施した後も気を緩めず、相手の次の働きに備える心身の態勢である。
たとえば、相手に有効な攻撃を加えたとしても、それによって相手が完全に戦う力を失ったとは限らない。
相手がなお反撃の機会をうかがっている場合もあれば、こちらの油断を利用して再び攻撃してくる可能性もある。
そのため、技が決まったと思われる後であっても、相手への認識を失わず、次の働きに対応できる態勢を保つ必要がある。
このような、相手への認識を保ちながら、次の事態に備える心構えを伴った身構えを、本教本では残心と捉える。
応じと追撃への備え
残心とは、単に技の後に一定の姿勢を取ることではない。
相手が反撃してきた場合には、その働きに「応じ」ることのできる態勢を保つことであり、状況によっては、さらに技を施す必要が生じた場合に対応できる態勢を保つことでもある。
したがって、残心には追撃へ移る可能性も含まれる。
ただし、それは無条件に追撃することを意味するものではない。
重要なのは、技の後も相手と状況を認識し続け、必要な対応を選択できる状態を失わないことである。
一撃の後に気を緩めない
武道の修練では、一撃によって相手を制する意識を持つことが重要である。
しかし同時に、「技が決まった」と自ら判断した瞬間に気を緩めれば、そこに新たな隙が生じる。
相手がなお動くことができるのであれば、その隙は反撃の機会となり得る。
そのため、一撃を放った後にも相手への認識を失わず、必要であれば次の動きへ移れる心身の態勢を保つ。
残心とは、このように、技の終了後にも攻防の関係が完全には終わっていない可能性を認識し続けることでもある。
残心は形ではなく状態である
残心は、外形的な姿勢だけを意味するものではない。
たとえ一定の構えを取っていても、意識が相手から離れていれば、本来の意味で残心があるとはいえない。
反対に、外見上は大きな動きがなくても、相手の状態や距離、次の働きを認識し、必要な対応へ移れる心身の状態が保たれていれば、そこには残心がある。
したがって残心は、姿勢と意識が一体となった備えの状態と考えることができる。
武道としての残心
競技では、技が決まった後に、その結果を表現したり、喜びを示したりすることがある。
スポーツとして競技を楽しむ立場から、そのような表現を一概に否定する必要はない。
しかし、格闘技や武術を「武道」として修練する場合には、技を施した直後にも相手への認識を失わず、心身の備えを保つことが重要である。
その意味で残心は、単なる技術上の備えではない。
技を施した後にも油断せず、相手と状況への認識を保ち、次に必要となる行動を選択できる状態を維持するための、武道的な心構えである。
