IBMA趣意書
武道の価値を探究し、将来世代へつなぐために
武道は、長い歴史の中で、戦うための技術としてだけではなく、人間の心身を鍛え、人格を陶冶し、より良い生き方を探究する文化として発展してきました。
そこには、技術、礼節、勇気、忍耐、責任、自己統制、他者への敬意など、人間が社会の中でより良く生きるための多くの知恵が蓄積されています。
しかし、社会環境や人々の価値観が大きく変化する現代において、武道の意義や役割も改めて問い直されています。
技術や競技成績だけを追求する武道でよいのか。伝統を守ることだけで、その価値を将来世代へ伝えることができるのか。武道によって身につけた力を、私たちは何のために、どのように生かすべきなのか。
IBMA(国際武道人育英会)は、これらの問いに向き合い、武道の本質と可能性を探究するために活動します。
武道を、人を育む教育文化として捉える
IBMAは、武道を単なる格闘技術や勝敗を競う競技としてだけではなく、人間の心身を育み、自己と他者を理解し、より良い生き方を探究するための教育文化として捉えます。
武道の修練では、技術や体力を高めるだけでなく、自らの弱さ、恐れ、迷い、執着、思い込みなどと向き合うことが求められます。
相手と向き合うことは、同時に自分自身と向き合うことでもあります。
自らを見つめ、心身を整え、困難な状況においても感情に支配されることなく、状況を冷静に判断する力を養うこと。それによって、自分の力を正しく生かし、他者とより良い関係を築くこと。
IBMAは、このような人間形成にこそ、武道の重要な教育的価値があると考えます。
強さとは何かを問い直す
武道における強さとは、相手を打ち負かし、支配する力だけを意味するものではありません。
自らの感情や欲望に流されず、恐怖や困難から逃げずに向き合う力。自分の誤りを認め、学び、変わることのできる力。そして、身につけた力を自分だけのためではなく、他者や社会を活かすために用いる力もまた、武道が育むべき強さです。
勝つことには価値があります。しかし、勝利だけを目的としたとき、武道は人を育む道から、他者を排除し、優劣を競うだけの手段へと変わる危険があります。
敗北や失敗にも、自らを知り、考え方を改め、成長するための重要な意味があります。
IBMAは、勝敗を否定するのではなく、勝敗を超えて、修練によって何を学び、その力をどのように生かすかを問い続けます。
理法を探究する
増田章は、長年にわたる武道の実践、指導、競技、研究を通して、武道修練の根本には「理法の探究」が必要であると考えてきました。
理法とは、特定の流派や個人だけに通用する教えではなく、自然と人間の本質に照らして、物事をより良い方向へ導くための普遍的な判断と行動の原理です。
武道において理法を求めるとは、教えられた技術や慣習を無条件に受け入れることではありません。
伝統を尊重しながらも、なぜその技術を使うのか、なぜその方法で修練するのか、それが人間の身体、心、社会にどのような結果をもたらすのかを、実践と検証を通して問い続けることです。
一つの答えを絶対視するのではなく、仮説を立て、実践し、その結果を検証し、必要であれば修正する。その過程を繰り返しながら、より本質にかなった技術、教育方法、生き方を探究します。
理法は修練の北極星です。
北極星が進むべき方向を示すように、理法は、私たちが迷いや困難に直面したとき、何を基準として考え、どの方向へ進むべきかを示す指針となります。
自他を活かす武道
武道によって得た力は、何のために使われるべきなのでしょうか。
IBMAは、武道修練の目的を、自分だけが勝ち残ることや、他者を屈服させることに置きません。
自らの生命、能力、個性を十分に生かすと同時に、他者の生命、尊厳、可能性をも尊重し、活かす道を探究すること。それが、IBMAの考える武道の重要な目的です。
ここでいう「自他を活かす」とは、単に対立を避け、相手に譲ることではありません。
不正や暴力に対しては、必要な勇気と力をもって向き合わなければなりません。しかし、その力は、憎しみや復讐、自己満足のためではなく、生命と尊厳を守り、より良い関係と秩序を回復するために用いられるべきです。
自分と他者の違いを認めながら、互いの存在を尊重し、双方がより良く生きる可能性を探る。IBMAは、そのための判断力、行動力、胆力、節度を育む武道を目指します。
心を拓き、武道の可能性を拓く
拓心武道は、増田章が長年の実践と研究を通して構築してきた武道思想および修練体系です。
その根底には、「心を拓き、武道の可能性を拓く」という考えがあります。
心を拓くとは、自分の考えだけを絶対視せず、異なる意見、経験、文化、技術から学ぶ姿勢を持つことです。
過去の成功や既成概念にとらわれず、自らの誤りや限界を認め、新たな可能性を受け入れることでもあります。
武道の可能性を拓くとは、伝統を否定することではありません。先人が遺した技術と精神を尊重し、その本質を学びながら、現代社会の課題や将来世代の必要に応じて、武道の教育的、文化的、社会的価値を発展させることです。
IBMAは、特定の流派や組織の優劣を競うのではなく、それぞれの伝統と独自性を尊重しながら、相互に学び合い、武道の新たな可能性をともに探究します。
伝統を継承し、未来を創造する
伝統は、形を変えずに保存することだけによって守られるものではありません。
伝統の中にある本質を理解し、それを現代に生かし、将来世代へ伝わる形へと発展させることによって、文化は生き続けます。
IBMAは、先人たちが築いてきた技術、精神、歴史、文化を尊重します。同時に、それらを検証し、記録し、体系化し、現代の教育、安全性、倫理、社会環境に適した方法で継承することを目指します。
伝統を学ぶことと、新しいものを創造することは、相反するものではありません。
伝統の本質を深く理解することが、未来を創造する基礎となります。新しい実践と研究によって得られた知見は、伝統に新たな生命を与えます。
IBMAは、伝統と創造を結びつけ、武道文化を将来世代へ継承します。
生涯にわたる学びを支える
武道は、若さや身体能力だけを競うものではありません。
年齢、性別、国籍、経験、身体的条件、生活環境が異なっていても、一人ひとりが自分に適した方法で学び、成長し続けることができます。
体力や技術が変化しても、自己を見つめ、心身の使い方を学び、他者との関係を考え、より良い生き方を探究することは、生涯にわたって続けられます。
IBMAは、武道を一時的な競技経験に終わらせず、人生のさまざまな段階における学びと成長を支える文化として発展させます。
国や流派を超えて学び合う
武道は、異なる国、地域、民族、宗教、文化、流派の人々を結びつける力を持っています。
異なる背景を持つ者同士が、互いの歴史や文化を尊重し、技術と知見を交換することは、新たな理解と信頼を生み出します。
IBMAは、特定の組織や流派の拡大だけを目的とせず、武道家、指導者、研究者、教育関係者、支援者が、それぞれの立場を尊重しながら交流できる開かれた場を築きます。
国境や流派の違いを超え、武道を共通の文化として学び合うことによって、国際的な相互理解、友好、協力の輪を広げていきます。
武道の価値を社会に生かす
武道の価値は、道場や試合場の中だけで完結するものではありません。
修練によって培われた礼節、責任感、忍耐力、勇気、自己統制、判断力、他者への配慮は、家庭、学校、職場、地域社会の中で生かされてこそ、その真価を発揮します。
IBMAは、青少年の育成、指導者教育、健康づくり、地域交流、国際交流、社会貢献などを通じて、武道の価値を社会に還元します。
武道によって強くなることを、他者の上に立つためではなく、困難に直面する人を支え、社会に責任を果たすための力へとつなげていきます。
IBMAが推進する活動
IBMAは、この趣旨を実現するため、次の分野を中心に活動を推進します。
- 武道を通じた人間形成と人材育成
- 武道教育の理論と実践に関する研究
- 安全で効果的な修練・指導方法の研究
- 空手・武道の技術、思想、歴史、文化の記録と体系化
- デジタル空手武道教本をはじめとする教育資料の制作
- 指導者および将来世代を担う人材の育成
- 国内外の武道家、研究者、教育関係者との交流
- 国や流派を超えた研究、実践、国際協力
- 地域社会における教育・健康・交流活動
- 書籍、映像、デジタル媒体による研究成果の発信
- 武道を通じた相互理解、友好、平和への貢献
これらの活動は、それぞれ独立したものではありません。
実践、研究、教育、交流、社会貢献を結びつけることによって、武道の価値を多面的に明らかにし、現代社会と将来世代に役立つ形へと発展させます。
志を同じくする皆様へ
IBMAの理念と目的は、一人の武道家や一つの組織だけで実現できるものではありません。
異なる経験、専門性、文化的背景を持つ人々が集い、互いに学び、考え、協力することによって、武道の新たな価値と可能性が生まれます。
私たちは、特定の流派や立場にとらわれることなく、武道を通じた人間形成、教育研究、文化の継承、国際交流、地域社会への貢献に関心を持つ皆様に、広く参加と協力を呼びかけます。
武道家、指導者、研究者、教育関係者、医療・健康分野の専門家、文化活動に携わる方、そしてIBMAの理念に共感し、その活動を支えてくださる皆様とともに、開かれた協力関係を築いていきたいと考えています。
互いの違いを尊重し、自らの心を拓き、学び合いながら、武道の価値を社会に生かす。
そして、自分だけではなく他者をも活かし、より良い社会を将来世代へつないでいく。
それがIBMAの目指す道です。
武道は、人を育み、世界をつなぐ。
この理念に賛同し、ともに歩んでくださる皆様のご理解、ご参加、ご協力を心よりお願い申し上げます。
IBMA(国際武道人育英会)
代表 増田 章
